第2回(2001.9)
「地下鉄日比谷線事故最終報告書(2000.10)」  
   明星大学:宮本昌幸


1.中間報告書以後の経過
 
もうホットニュースというわけにはいきませんが、日比谷線事故調査のその後を以下に述べます。                                                      
 中間報告書提出の後、事故調査検討会では脱線要因をさらに絞り込み、対策の提言などの検討を行なった。それらの検討をもとに、2000年10月26日13:30から第6回事故調査検討会及び第22回ワーキンググループ合同会議を開催し、終了後の14:30に「帝都高速度交通営団日比谷線中目黒駅構内列車脱線衝突事故事故調査検討会調査報告書」が井口座長から運輸省鉄道局長に提出された。
                                 
                 

2.最終報告書

 
全体で6回の事故調査検討会、22回の事故調査検討会WGが開催され、現地走行試験、計算機シミュレーションなどの結果をもとに議論が重ねられた。これらすべての検討会での検討概要は国土交通省の以下のホームページで見ることが出来る。                 http://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha00/koho00/tetujiko_.html             
 このホームページに国土交通省のホームページトップページ
  http://www.mlit.go.jp/          
からたどり着くには、以下のようにかなり奥深く位置している。                 
 広報事項→報道発表資料→平成13年1月15日以前の記者発表事項
 →運輸省 → 旧運輸省記者発表事項(平成12年分)→10月分
 →営団中目黒駅構内列車脱線衝突事故について                       
 
 最終報告書(PDF形式ファイル) は                                    http://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha00/koho00/tetujiko22-6_.html 
で、全文を見ることができる。                                    
 また、事故調査検討会委員名簿、事故調査検討会WG委員名簿はそれぞれ以下のアドレスに掲載されている。                                           
  http://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha00/koho00/tetujiko-m1_.html         
  http://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha00/koho00/tetujiko-m2_.html          
 

3..事故調査を終えて

 2000年3月8日から8ヶ月、文字通り寝食を切り詰めての連日でした。「鉄道事故調査委員会」としての初仕事を実り多い形で終え、鉄道の更なる安全に貢献したいとの使命感に関係者全員が燃えていました。本職があるので会議は夕方から始まり帰宅が次の日と言うことも度々でした。

3.1 脱線とは
 脱線は、車輪がレールを上下に押す力(輪重)(リンジュウ)が減少し、車輪がレールを外側に押す力(横圧)(オウアツ)が増加すると起きやすくなる。つまり、押さえの利かないときに横槍を入れられると外れてしまうということである。また、レール・車輪間の摩擦係数が小さいとツルツルして車輪はレールをよじ登りにくい。逆に摩擦係数が大きいと車輪はレールをよじ登りやすく脱線しやすくなる。車輪フランジ角度の影響も大きい。フランジ角度が大きいと脱線しにくい。
 
3.2 脱線要因
・左右の車輪の輪重が静止時にすでにアンバランスで、脱線した車輪の輪重が小さかった。
・レール上の油成分などが、始発からの列車の走行により拭き取られていき、事故時にレール・車輪間の摩擦係数が大きくなっていた。
・台車の軸ばねが固めで、曲線出口側の緩和曲線部での軌道のねじれに追従しにくくなっていて、輪重が減少していた。
・レールの研削形状と車輪形状との組み合わせが、横圧の増加に影響した。
の要因が支配的で、中でも1,2番目の影響が大きかった。
 

3.3 対策項目
  この様に複数因子の影響が複合的に重なった結果である。コップに水を入れる例え話でお話している。コップに幾種類もの水を入れていく。どの水でも1種類だけではこぼれない。しかし全部が合わさるとコップからあふれてしまう。対策としては最も多い水の量を減らすことが効率的である。
 そこで、再発防止の具体的な対策項目として
(1)静止輪重の管理を行い、左右車輪のアンバランスの管理値10%を努力目標とする。
を大きな柱として,加えて
(2)軌道の平面性の管理を実施していない事業者は行うこと。
(3)レール研削形状の適正化。
(4)必要に応じて車輪フランジ角度の増加。
(5)推定脱線系数値が1.2未満の区間の脱線防止ガードの追加設置。
が提案された。
 

3.4 総量規制
 今回新たな脱線の評価指標として「推定脱線係数比」が提案された。「推定脱線係数比」は理論及び走行実験データから構築された指標で、線路や車両の諸元等をエクセル上に入力すれば簡単に求めることが出来る。このエクセルプログラムファイルが鉄道事業者に配布された。事業者はこの値が1.2以上になるように対策をとればよい。鉄道事業者は、自社の保有車両数や線路長などから、車両側の対策に重点をおくか、軌道側の対策に重点を置くか選択の余地がある。一律の対策とは異なり、各事業者が改善しやすいところを重点的に対策することで効率的な対策が可能となっている。先ほどのコップの例えでは、「水さえこぼれないなら、どの水を減らしても良いですよ。」という総量規制の考え方である。

3.5 事故防止に重要な事柄
 
報告書では事故防止の背景にまで踏み込んで、特に重要と考えられる以下の2項目について言及された。
(1)各種技術分野の統合システムである鉄道においては、各技術分野間の情報の共有化や連携の強化に一層努めるべきである。
(2)鉄道事業者は、他社の事故事例をもとに自社の安全対策を再点検する目を持つことが重要である。また、運輸省は、事故情報の周知、適切な安全対策の策定及びその徹底を図ることが重要である。

3.6 今後の検討課題

 一連の調査・検討は急曲線・低速走行時の脱線現象に関する一大研究プロジェクトでもあった。車輪・レール間の摩擦係数が今まで想定していた以上に大きくなり得ることなどや、多くの知見が得られた。合わせて未解明な部分もより明確になってきた。
 このような経過のもとに、同種事故防止の観点から「急曲線における低速走行時の脱線に関する余裕度を高める等、さらに安全性を向上するには、以下の項目について、引き続き取り組みを強化していくことが必要である。」と報告書に記述された。
 設計に反映させるべき項目として、急曲線を考慮した車両の設計法、急曲線部における線路線形設計法、衝突を考慮した車両の設計の3項目。
 検討の深度化が必要な項目として、浮き上がりから脱線に至るメカニズムの解明、車両の静止輪重の管理手法、急曲線における軌道狂い管理手法、レールの研削における適正断面形状、レール・車輪間の摩擦の原理および潤滑対策、乗り上がり脱線に対する新たな安全評価手法の確立の6項目。 
 これらの項目の検討の場として「第6回コラム」で述べるように「急曲線における低速域での乗り上がり脱線等の防止に関する検討会」が設置され、私が座長を勤めることとなった。

3.7 マスコミの反応
 検討会では積極的な情報公開を行ってきた。検討会で検討していることがマスコミに比較的正確に伝わったことや、検討会関係者の事故原因解明への熱意が伝わったと思われることも加わり、最終報告書が提出された後の各紙社説では、検討会の仕事を評価していただいた物が多かった。
 28日朝日新聞では「60回以上に及ぶ走行実験やコンピューターによる解析を繰り返し、複雑な原因に迫った検討会の解明努力を評価したい」、同じく28日の毎日新聞では「今回、初めて出動した検討会は昨年6月に発足した鉄道局長の諮問機関である。背景と運輸省の対応まで踏み込み、期待に十分応えてくれた。」
 検討会の初仕事が社会から合格点がもらえて、常設の機関へ発展していけば幸いである。