Version 980305

100周年記念誌

超伝導工学分野 牟田研究室
 当分野は、超伝導工学・電気機器学・パワーエレクトロニクスの幅広い素養を身につけるとともに、機械加工やデバイスの作成、電子回路の設計、実験、計算機シミュレーションなど多様な場面での実践を通して、電気工学者や技術者としての教育を行っている。また20世紀の三大発見(超伝導、半導体、レーザ)の一つである超伝導現象を花開かせ、21世紀のキーテクノロジー「超電導技術」の電力機器への応用研究を目的としている。
 当分野のStaffは、牟田一彌教授--1970年九州大学大学院博士課程単位修得のうえ退学、同年佐賀大学理工学部講師。助教授、教授を経て、95年10月京都大学教授に着任。この間、74~75年マサチューセッツ工科大学(アメリカ)客員研究員、80年リーズ大学(イギリス)客員研究員。工学博士--、星野勉助教授--1982年東京工業大学大学院博士課程修了。同年通商産業省工業技術院電子技術創業研究所研究員。1988年佐賀大学理工学部助教授。1987年京都大学助教授に着任。工学博士--、中村武恒助手--1998年九州大学大学院博士課程修了。同年京都大学助手に着任。工学博士--の3名からなる。
 1911年発見された超伝導現象は1986年の酸化物系高温超伝導物質が発見されるに及んで工学的応用への期待は更に膨らんでいる。工学的応用分野の中でも、我々は特に電力システム機器、パワーエレクトロニクスデバイスなどの開発に関心を持ち、その基礎的研究と実用化研究を行っている。更に、特性解析のシミュレーション法、設計法、制御法などの確立を計画し、実施している。そのいくつかを紹介する。
(1) 超伝導発電機に関する研究
 電源の遠隔・偏在化や長距離・大容量化に伴い、電力系統の安定度や電圧安定性の確保がますます重要となってきている。超伝導発電機は、現用機に比較して小型・軽量化、高効率化が可能であり、また上記の安定度などの要求を満たすものとして注目されて、さらに省エネルギー・省資源にも寄与する電力機器として期待され、現在通産省のニューサンシャイン計画の一環として研究組合Super-GMが設立され、70 MWモデル機の開発が行われている。このプロジェクト発足以前から我々は大学で可能な限りの研究に携わり、そのフィージビリティ調査の段階で我々の研究成果が一部反映されたと思っている。構造上は界磁巻線が超伝導化され、一方また電機子巻線が空隙化されるので、機器特性を把握し、設計法を確立するための新たな電磁界解析を出発点に等価回路やその定数の定式化に成功した。これらに関する解析的研究は、より良い超伝導発電機のモデル化のために今でも継続されている。それに電力系統内へ導入した場合の特徴を解明し続けている。さらに一方、20 kVA級の全超伝導発電機を自作し、これに磁束ポンプと呼ぶ所謂超伝導励磁機を適用した超伝導界磁巻線のブラシレス励磁系を確立し、その発電に世界で初めて成功した。これは世界的にも例を見ない新タイプの全超伝導機であり、今後も特性解析・実験的研究を継続したい。また、励磁機に採用した磁束ポンプは、延世大学との研究協力に展開し、韓国電気研究所の界磁超電導発電機の開発研究をサポートするために、研究員を受入れるとともに30 kVA超電導発電機の設計、特性評価を行っている。
(2) 超伝導モータに関する研究
 モータの超伝導化も小型・軽量化と効率向上が期待され、省エネルギー技術として位置付けられる。低温超伝導体を用いた30 kVA級、4極、1000 rpmの回転電機子型と回転界磁型の2台の超伝導同期モータを試作した。しかし、回転電機子型の超伝導界磁巻線は十分な性能を発揮できず、300 rpmの回転に留まった。一方、回転界磁型については駆動電源である電流型インバータを確保できずに、冷却テストの段階で中止状態にあるものの、この電動機の機器定数などは測定し、V特性も得ている。
(3) パワーエレクトロニクスデバイスに関する研究
 たとえば、まだ研究中であるSMES (超伝導エネルギー貯蔵装置)では、電力変換器は重要な役割を果たしている。この場合、変換部を低温デバイスにする意義は効率、運転、保守などの面から大きい。我々は超伝導制御整流素子の実用化はできないか、S-N転移現象を利用した熱転移素子の基礎研究を行っている。これは、ソ連時代のレベデフ物理研究所との共同関係の元に開始された。今日まで、NbTi材を用いた100 A, 5 V程度の熱式制御素子の研究に成功しているが、まだ多くの解決すべき課題を抱えている。
(4) 他の超伝導機器に関する研究
 超伝導コイルの励磁電源となる磁束ポンプの研究、超伝導ケーブルの基本的設計研究、通電損失の分析、小型超伝導変圧器、超伝導マグネットデータベースの研究など進めるとともに、無誘導コイル型S-N転移方式の限流器の研究、限流機能を備えた四巻線変圧器の研究をこれまで進めてきた。これらの研究から多くの知見が蓄積されたが、たとえば、共通課題として、超伝導線材の大電流密度化、安定化などの基礎研究の重大さを痛感している。
(5) 新型高速モータに関する研究
 超伝導研究領域と間接的に関係あるヘリウム液化機などに必要とされる新型高速モータの研究も行っている。
 将来展望として、マルチメディアや情報通信分野など、日常生活に非常に近い技術開発が驚くべき速度で進んでいる今日、超伝導もわれわれの身近に役立つ技術開発であることを認識し、研究に取り組んでいる。また、超伝導技術は21世紀のキーテクノロジーといわれるように、着実に研究を積み上げていく考えである。