当研究室は,細胞核の中で日常的に発生するDNA損傷が修復されるしくみを研究しています。DNA修復は複数種類のタンパク質が協力することによって達成されます。わたしたちは,このしくみに迫るためにDNA修復ではたらくタンパク質がDNA修復反応の過程で形成するタンパク質・タンパク質複合体やタンパク質・DNA複合体に着目し,複合体の「形」から「機能」を明らかにする研究を行っています。複合体の構造には実に多くの機能に関するヒントが含まれています。これらのヒントをたよりに,変異体を用いた生化学的手法や物理化学的手法により,タンパク質の機能を詳細に理解することを目指しています。DNA修復ではたらくタンパク質は,ゲノムDNAの安定維持にかかせない存在ですが,変異などにより正常に機能しなくなったタンパク質はがんを誘発する可能性があり,生物にとって脅威となることがあります。わたしたちは,研究で得られた知見ががんなどの難病の治療法の開発に役立つことを期待しています。

研究の概要

研究の背景

・当研究室では「タンパク質の形と機能」の研究を行っています。


タンパク質は様々な生命現象を担っている生体高分子であり、その数は生物種によって異なりますが数百から数十万種類と言われています。それに対してタンパク質を構成するアミノ酸はわずか20種類です。20種類しかないアミノ酸が直鎖状に連結するだけで生体の機能の大部分を担っていることはとても不思議に思えますが、これにはタンパク質の形が深く関わっています。タンパク質はこのアミノ酸の並び方を基に、一つの形へと折り畳まれます。折り畳まれたタンパク質はそれぞれ独自の形(構造)を持つことで、外部への作用の仕方が変わります。これこそがタンパク質の持つ特異的な機能へと繋がるのです。しかし現在見つかっているタンパク質の大半は、その構造が分かっていません。当研究室では、X線結晶構造解析という手法を用いてタンパク質の構造を原子レベルで明らかにし、構造に基づいた機能の解明を目標として研究を行っています。



・タンパク質と核酸との相互作用が原子レベルで分かると . . . . . .


細胞の中で、タンパク質が作用する重要な物質の一つにDNAがあります。DNAは遺伝子の本体であり、遺伝現象によって伝わる情報を有する大事な物質です。DNAはタンパク質を作る設計図だと言われていますが、DNAだけあってもタンパク質が作られるわけではありません。細胞内においてはDNAがタンパク質などの働きによって、DNAがコピーされたり、どの遺伝子からタンパク質を作るのかを決定したりしています。つまりDNAへタンパク質がどのように作用しているかを原子レベルで理解することは

DNA複製、転写、修復、組換えの仕組みを詳しく理解することに繋がります。これらの研究は創薬や遺伝子治療への応用へと繋がる重要な研究であると言えます。



・相同組換えについて


細胞が生きている間、DNAは様々な要因により、損傷を受けていることが知られています。この損傷は放っておくと遺伝情報の変化や損失をもたらすため、細胞はDNAの損傷を修復する機構を有しています。DNA損傷を修復するためにはタンパク質がDNAと相互作用しなければなりません。そこでDNAを修復するタンパク質の構造や、実際にタンパク質とDNAとが相互作用した構造を知ることでどのようにDNA修復が行われているかのを解明することができます。当研究室で行っている研究テーマの多くは、

DNA修復機構に働くタンパク質に着目しています。



・相同組換えで働くタンパク質


DNA損傷の中で最も重篤な損傷がDNAの二つの鎖が切れてしまう二重鎖切断です。この損傷はダメージを受けたDNA上の全ての遺伝子情報が失われてしまう可能性があることからも二重鎖切断により細胞が死んでしまったり、二重鎖切断ががんや遺伝病の原因となってしまうことは想像に難くないと思います。幸いなことに、生物はこの重篤な損傷を治す機構を身につけています。そのうちの一つが相同組換え修復であります。この機構は失われたDNAと同じ遺伝情報を持つ、相同染色体や姉妹染色分体を鋳型とすることで二重鎖切断を修復することができます。当研究室では、この機構に働くタンパク質であるRad51、Rad52、Rad59、Dmc1などの因子に着目し、その機能の解明に努めています。



・ゲノムDNAを凝集するヒストンについて


生体内においては普段、DNAは非常に小さく凝集していますが、必要な時に必要な遺伝情報が載っているDNAがほどけることによって、遺伝情報が読み取られます。この時DNAを折り畳むのに寄与しているタンパク質がヒストンと呼ばれ、これにDNAが巻き付いたものをヌクレオソームといいます。DNAはヒストンとの相互作用を介して凝縮したり、ほどけたりと非常に動的な動きをすると考えられているのにも関わらず、その仕組みを理解するために必要な構造情報は、1997年に発表されたヌクレオソーム構造から大きな進展が見られていません。私たちは現在分かっているヌクレオソームとは異なる構造やヌクレオソームにその他の因子が結合した構造を解くための方法の開発も行っています。